源氏物語 第9帖「葵」

第9帖「葵」、ここまで聴いてきた中でいちばん面白いと感じた章でした。

事件がいっぱい起こり、内容が盛りだくさんなんですよね。

 

【あらすじ】桐壺帝が譲位し、朱雀帝が即位する。

4月、賀茂祭に先立って行われた御禊行列に光源氏も参加。お忍びで見物に出かけた六条御息所は、葵の上の一行と牛車の置き場所をめぐって争い(車争い)になり、結局牛車を押しのけられて屈辱を味わう。

その後、葵の上はもののけに悩まされる。葵の上は無事に男児(夕霧)を産むも、急逝してしまう。

光源氏は喪に服した後、若紫(紫の上)と結婚した。

 

まずは、車争い。そして、葵の上にもののけが取りつき、死んでしまう。光源氏は葵の上を見舞った折り、六条御息所の生霊を見て愕然とする。

葵の上の加持祈祷で焚かれたケシの香りが、そこにいないはずの六条御息所の衣に染み込み、着替えても髪を洗っても匂いが取れないシーンは印象的で、六条御息所の魂が葵の上に取りついた証拠に思える。しかし、嗅覚は六条御息所の主観的な感覚ともいえ、生霊の声を聞いたのも光源氏だけ。生霊は2人が見た幻とも解釈できるのが、この物語の面白いところだ。

佐藤晃子著『源氏物語解剖図鑑』より

現代の考え方でいくと、生霊は2人の見た幻としか思えませんが、当事者、特に六条御息所にとっては、間接的とはいえ人を殺してしまったことになるわけで、とても可哀想です。着物についた匂いが取れないシーンは、本当に印象的でした。

 

可哀想といえば、この章では、若紫も、私は可哀想に思ってしまいました。

この頃、若紫はもう15才くらいになっていて結婚しておかしくない年齢であり、彼女の置かれた状況からすると光源氏はたぶん最上の結婚相手なのでしょうし、2人の結婚はおめでたいことなのですが。

若紫の主観からすると、父親代わりというか親戚のお兄さんみたいに思って慕っていた人に急に襲われた感じがしたのではないかと、で、ショックでふさぎ込むと、光源氏からは大人げないと叱られる。現代の価値観で考えてはいけないと思いつつ、聴いていてなんだか辛くなってしまいました。

 

この章では、葵の上は亡くなってしまうわけですし、女性たちは皆、三者三様に悲しく辛い内容でした。